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それはそれで複雑だが冷たくされるよりいいと思ってしまう。情けないがそれだけ三津の存在が大きい。
「三津,もう手が疲れたろ。三人もの按摩をした後だ。この辺で終わりにしよう。」
「えー,まだ出来ますよ。」
「続きはまた明日にしよう。そろそろ君の顔が見たい。」
横に来てくれないかとお願いしたら,遠慮しながらも隣りにやって来て寝転がった。
よく見せてくれと両手で顔を挟んでしっかり目を合わると三津の目は泳ぐ。
「嫌なの?照れてるの?どっち?」 https://www.easycorp.com.hk/zh/offshore
「照れてる……。」
こんな近距離で目を合わすなんて慣れるはずないと少し拗ねた。それから普段からやり慣れてるあなたとは違うのと嫌味を投げつけた。
「やり慣れてないよ。三津はこうしないと私を見てくれないからしてるんだ。誰にでもしてるんじゃないよ。信じて。」
恥ずかしいのなら見ないようにすると額に口づけをしてから三津の顔を自分の胸に埋めさせた。
「三津は二歩も三歩も退いてるから,私がこちらに引き込まないといけない。」
無遠慮に踏み込んで来る厚かましい女とは違う。そんな奴らに恋心を抱くはずないと言って信じてもらえるだろうか。
そんな女でも手を出したんでしょ?と言い返されるのが目に浮かんだから口にはしなかった。
「すみません……寄り添う事をしてませんでしたね。」
三津のか細い声に,突き放したのは私だからねと優しく声をかけて髪を撫でた。
「いつも的外れな事をしてすまない。こうして強引にしてしまうのも嫌われる要素の一つだろうね。」
でもそうでもして捕まえておかないとどこかへ行ってしまいそうで怖いのだ。そう胸の内を吐露すると,三津がぎゅっと寝間着を掴んだ。
「ここに居ますから。逃げませんから。」
不安にさせないようにしてくれてるのが嬉しくて,桂はそれを抱き締める力で表した。
「もし……嫌だと……無理だと思うなら逃げ出して……。」
ごめんね我慢の限界だと三津の唇を奪った。激しく貪って,首筋を伝って滑らかな肌に痕を残していく。
「あんまり……見える所には……。」
残さないでと吐息混じりに懇願された。それは聞けない願いだなと桂は意地悪い笑みを浮かべた。
独占欲の塊のような男だ。自分のモノだと見せつけたくて仕方ない。
「駄目だよ。私が愛する証なんだから見せつけないと。見えない所にも沢山刻むけど。」
「意地悪……。」
抗議したって無駄なのは分かってるからそれ以上は言わなかった。喧嘩になるのは嫌だしそれよりも泣かれたら困る。夫を泣かすのが特技になってしまった。二月もの間職務全うして我慢してたから少しの望みぐらいは叶えてやりたいと思う。
そうは思うが,きっと高杉と山縣は覗きに来るだろうから気が気じゃない。
「誰か来るかも……。」
「来るだろうね。」
分かっていながらも桂はやめる気はない。
我慢の限界を超えてるならやめる筈ないよなと三津も頭の中では分かっていた。
それよりも,相手してあげなきゃ可哀想だとか,頑張ったご褒美に……そんな感覚で体を差し出してるのが違和感だった。
『前は,好きやからこの人のモノになりたいって気持ちで受け入れてたのにな……。』
桂の気持ちと,自分の気持ちの温度差に三津の表情は曇る。
「……嫌なら逃げていいんだよ?」
そんな三津の僅かな変化にも桂は敏感に反応する。
「ううん,違うの……。
小五郎さんを好きになった時の気持ちに戻りたい……。」
三津はあの時と同じぐらいの愛情をもってあなたと繋がりたいのと告げた。
「三津……。私は嬉しいよ。そうやって思ってくれるのがもう愛情だ。三津はまだ自分が歩み寄ってないと思ってるのかもしれんが,以前よりかなり近付いてくれてる。私はそこに愛を感じてる。
嬉しいよ。ありがとう。」
桂は三津を抱きしめて,感謝と愛してるの言葉を何度も繰り返した。
「今日は気持ちが満たされた。このまま抱き締めて寝てもいい?」
「それでいいんですか?」
「いいよ。いい夢が見られそうだ。ありがとう,おやすみ。」
桂は三津を抱き留めたまま目を閉じた。それから寝息を立てるまでにそんなに時間はかからなかった。
『きっと熟睡出来てへんのやろな。』
「死ぬ時は誰かの為……みんなの為に死にたいって思ってて,それを言ったら小五郎さんにはみんなの為に生きろって怒られました。
あ!勿論死にたくないですよ?でももし死ぬとしたらの話なんで!」
気にしないでと今度はにっと明るく笑ってみせた。
「相変わらずじゃじゃ馬やのぉ。やっぱ乗りこなしたいけぇ俺の子産めや。」
三津は絶対嫌!と笑顔でばっさり斬り捨てた。
「何でや!あ!そうや三津さん九一と何したん!?」 https://www.easycorp.com.hk/zh/offshore
何でそんなどうでもいい事を覚えてるんだこの男はと三津の顔が引き攣った。
「何もない!」
ここは逃げた方がいいなと思った三津は阿弥陀寺に向かって駆け出した。
「逃がすか!」
すぐさまその後を追いかけて赤禰とフサは置いてけぼりを食らった。
だが目線の先で三津はすぐに高杉に捕まって羽交締めにされていた。
「大人しく俺の子産め!」
「絶対嫌ぁぁぁ!!武人さん助けてぇぇぇ!!」
『おうおう……そりゃいかんやろ……。』
高杉なら襲いかねんと慌てて駆け寄って高杉を殴りつけて三津から引き離した。三津はガタガタ震えながら怖かった怖かったと赤禰にしがみついた。
「高杉さんこれは桂様に報告いたしますね。」
フサは真顔で高杉の足の脛を何度も蹴った。
「フサちゃん痛い。地味に痛い。」
「もっと痛い方がいいですか?」
「違う。痛いのが嫌じゃ。そう言うところ稔麿そっくりやな。」
「光栄です。」
にっこり笑うフサに高杉は押し黙って頭を掻きむしった。どうもフサには強く言えない。まだ幼く思えるもやる事は兄に似ていて顔も似ているから余計に変な感じがする。
高杉はそのまま視線を三津に移すと赤禰に縋りついたまま赤禰も平然と肩を抱いて歩いている。
「男前は得やな……。」
高杉は横顔もええ男だわと悲しみに打ちひしがれた。屯所に戻りフサは早速文に高杉の行いを報告した。文はまた何か仕返しをしなきゃねと悪い顔で笑った。
三津は思いの外体の震えが止まらない事を悟られたくなくて疲れたから少し休むと部屋に戻った。
『高杉さんでも怖いんや……。』
心も体も元気になった筈なのに,体はあの時の恐怖をまだ覚えているのか小刻みに手が震えた。土方と対面して和解もしたのにと溜息をついた。
「三津入るよ。」
落ち着いた入江の声がしてすぐに障子が開いた。三津は震える手をぎゅっと握ってそれを隠した。
「武人さんに聞いた。晋作は懲りん奴じゃ。やっぱり怖かった?」
何でそうやって平気なふりをして隠そうとするんだと困惑気味な笑みを浮かべた。
それから貸してみと三津の両手を握った。
「好きでもない男に無理強いされて怖いのは当たり前や。隠すことない……と言っても三津の頑固さは治らんけぇそうやなぁ……水に流しに行くか?」
入江がにっと笑うと三津も口角をつり上げて大きく頷いた。
「海は流すって言うより飲み込むですね。これからは飲み込んでもらわな。」
三津波打ち際に近寄って寄せては返す波を眺めた。
「今日は白波が立っちょる。あんまり近寄ると本当に飲み込まれる。」
入江はなるべく三津の側について,大丈夫大丈夫と無邪気に笑うのを見ていた。
「先鋒隊の奴らに絡まれたんやって?」
「あーあの失礼な人達先鋒隊って言うんですか?」
「そっ。あいつらは武士の中でも旗本や上の身分の奴らやけぇ足軽の俺らや武士やないみんなを馬鹿にしとるそ。」
入江は腹立つと足元にあった手頃な石を拾うと海に投げた。三津はだからあんな態度だったのかと納得した。
「あの人達私の嫌いな言葉言いました。あの人達のせいで切腹になった人がいるんですか。」
三津も同じように石を拾って海に向かって投げた。だが入江のようには飛ばないのが納得いかなくてまた拾って投げた。
『いらん事言いやがって。』
入江も同じようにもう一度石を投げた。
「そう。奇兵隊を作って間もない頃や。長州藩のお偉いさんが先鋒隊とうちの視察をしたんやけど,その時うちの隊の視察に時間がかかり過ぎてあっちの視察に割く時間がなかったそ。
それをあいつらはこっちの策略や言うて揉めたんや。」
三津は今日のあの二人の態度を見ていちゃもんつけそうな感じだったわと目を細めて前を見つめた。そしてその顔を思い浮かべてその顔をめがけて石を投げた。
「それが高杉さんの罷免と関係してたんですね……。」
高杉はにやりと片口を上げる。
「残念ながら三津はもう私の一部だ。お前にも他の誰にもやらん。
その黒紋付を汚す前に稔麿に返しなさい。稔麿,三津は?」
「この馬鹿が子を産めと迫ったので身の危険を感じて九一の付き添いで帰りました。
こんなに遅くなると思ってなかったので。」
嫌味を込めて二人で何処に居たのやらと横目で久坂をちらっと見た。
「中岡君に会って話が弾んでしまったんだよ。」 https://www.easycorp.com.hk/zh/offshore
こんな事になってるとは思ってなかったよと右手で額を押さえた。
「ん!?中岡さん来ちょるんか!!そりゃ俺も会いたいのぉ!!
最後に会ったのはいつやったかな?てっきり三田尻におるかと思ってたわ!!」
桂の話に食いついた高杉の頭からは三津の事などすこーんと抜けていた。
「藩邸に寄ると言ってたよ。稔麿すまなかったね。」
苛々が最高潮の吉田の方を見るとただ無言でこくりと頷いた。家に帰った三津は入江とのんびりお茶を飲んでいたが,流石に桂の帰りが遅いのでそわそわしだした。
「玄瑞もまだだったんで多分二人で一緒に居ると思いますよ。また宮部さんに捕まってたり。」
「そうですかねぇ……。」
それならいいんだけど。そう言いながらも何処かで女の人をはべらせてないか心配で堪らない。
『宮部さんが一緒なら女の人呼んでそう……。』
落ち着かなくて頻繁にお茶を啜ってしまう。
「その顔は……浮気を心配してますね?」
「んぐ!?っごほっ!」
見事に気管に入って咽た。
「すみません図星でしたか。」
入江は慌てて寄り添うと優しく背中を撫でた。
どうしてこうも分かりやすく動揺してしまうのか。
モテる男は大変だね〜くらいの余裕のある返しをしてみたいと軽く咳こみながら苦笑した。
「もし辛くなったら私に甘えていいんですよ?」
そっと肩を抱いて三津の髪に唇を寄せた。
「私は三津さんの都合のいい男になりたいんですよ。」
「何ですかそれは。」
また変な事言ってるなぁと入江を見上げればほっそりと笑った目に見つめられた。
「三津さんが悲しかったり辛い思いをして逃げたくなった時や,桂さん以外の誰かに縋りたくなった時の甘える場所です。」
「入江さんをそんな扱いしませんよ。」
そんな失礼な事出来ないと笑った。
「私がそうなりたいんですよ。
今も不安な気持ちがちょっとでもあるなら,それを取り除きたい。
でも取り除くには三津さんが甘えてくれないと。
甘えて嫌な事忘れたいって願うなら私はそれを忘れさせます。」
柔らかく三津を腕の中に閉じ込めて耳元で甘く囁く。
「そりゃ不安はありますよ……。」
「ですよねぇ。桂さんモテますから。でも大丈夫,必ず三津さんの所に帰って来ますから。」
大丈夫大丈夫と言い聞かせながら三津の背中をぽんぽんと叩いた。
「帰って来るにしても寄り道しないで帰って来て欲しいもんです……。」
他の女に目もくれずまっすぐと。でもそれは自分勝手なわがままで,桂の行動を制限する権利など自分にはない。
それを分かってるから余計に苦しい。
「やっぱり私は商人の奥さんの方が合ってるんかなぁ。」
ぽろりと溢れた弱音に入江の口元が緩む。
「何か吐き出したいならどうぞ。」「私ね,小五郎さんと出逢ったのと同時期ぐらいに縁談があったんです。呉服屋の若旦那さんと。
でもその時は新ちゃんの事が吹っ切れてなくて断ったんです。」
「それは桂さんはご存知で?」
「はい,その件で相談に乗ってもらってたんで。」
お陰で断れたんだとその時を懐かしく思って笑った。
「だけど近所の人に私は商人の奥さんが合ってるって言われたの思い出しちゃいました。
四六時中一緒に居て商売してる方が良かったのかなぁって……。
覚悟して来たって言った癖に何言ってんだって思いますよね〜。」
ごめんなさい忘れて下さいと笑って入江の腕を解こうとしたが,その腕は三津を締め付けた。
「弱いとこ見せたっていいんです。誰も責めたりしませんから。
もし見せたくないなら私だけに……。誰にも内緒で包みますから。」
男はそう言うもんだと斎藤は一人で頷いた。
「はい?
あっ,布団はその辺に置いといて下さい。ありがとうごさいました。次小姓になるならやっぱり斎藤さんがいいや。」
いいでしょ?と顔を覗き込まれて黙り込んだ。https://www.easycorp.com.hk/zh/offshore
「そんな機会はないだろうが考えてやっても…いいぞ。」
満面の笑みを浮かべて顔を覗き込まれたら,普通の男なら勘違いする。
コイツ,俺に気があるのか…?――と。
「冗談でも俺の小姓になりたいと言ってたら周りに勘違いされるぞ。」
「え?駄目ですか?斎藤さんの所に居たいのはホンマなんですけど。
だって斎藤さん優しいし,頼りになるし,それに斎藤さんにとって私って空気みたいなもんじゃありません?
だから邪魔にはならないと思います!」
三津はぐっと拳を握って力説した。
「……俺まで勘違いしたらどうする気だ?」
三津の顎に手を添えて上を向かせた。
驚いて見開かれた目は反らす事なく斎藤を映した。
「斎藤さんが勘違い起こしたらどうなるん?」
今度は好奇の目を輝かせて見つめてくる。
『こんなつもりじゃなかったんだが……。』
誰がいつ変な気を起こすか分からんぞと警告のつもりと,ちょっとからかいたかっただけなのに。
でも退くに退けない。
「どうなるか…試すか?」勘違いを起こしたら……。
想いが通じ合ってると思い込んだら,全てを自分の物にして構わないと考える。
『コイツにその気があると分かれば迷いはないが…。』
ただ今の状況は自分の方がおちょくられてる。
『俺が絶対に変な事はしないと分かってるから目も反らさないんだ。』
「これからも旦那様と呼ぶのであれば,夫婦としてのそれなりの事はしてもいいんだな?」
これが最終警告。
“止めて下さい,冗談だから!”って,笑ってくれたらそれでいい。
『だが,どうなるか聞いてきたのはコイツだから別にちょっとぐらいは……。』
いいのでは?と思った瞬間。
「……夫婦としてのそれなりの事って,具体的にはどう言う事でしょう?」
「あ……。」
障子を開け放したままなのを完全に忘れていた。
「いくら斎藤さんでも三津さんに変な事をしたら…ただじゃ済みませんよ?」
『俺に最終警告が……。』
三津の顎に手をかけたまま硬直した。
「三津さん聞きましたよ!ようやく土方さんから解放されたんですねっ!!
でも油断大敵です,こうやって悪い虫が寄って来ますから。」
「悪い虫とは心外だな。」
ムッとした斎藤は三津の顎から手を引くと腕組みをして総司と向き合った。
「三津さんもそんな簡単に触れさせちゃ駄目ですよ!
それ以前に部屋で男と二人きりになる事も禁止です!」
「お前はコイツの何なんだ?そう言うお前こそ下心があって来たんじゃなかろうな?」
「私は三津さんにもしもの事がないように心配してるだけです!」
二人が睨み合うのを三津は苦笑いでまぁまぁと宥めていると,そこに不機嫌な咳払いが割って入った。
「もうお三津ちゃん返してもらっていい?私とお三津ちゃんは忙しいんですけど。」
お二方は暇そうで羨ましいわと厳しい眼差しのたえが仁王立ちをしていた。
「お三津ちゃん買い物について来てくれへん?今日は買うもんいっぱいやねんよ。」
「はい,行きます!」
「では護衛と荷物持ちに俺もついて行こう。
それと買い物にこれは必要ないぞ。」
斎藤は三津の頭から姐さん被りを取り,少し乱れた髪を丁寧に整えた。
『またそうやって触る!』
総司が文句を言おうとしたのをたえに邪魔された。
「こうやって見ると斎藤さんとお三津ちゃんってお似合いね。」頬に手を当ててじっくり見つめてくるたえに困惑しながら,斎藤と三津は顔を見合わせた。
「そうですかね?斎藤さんは昼間っからお酒呑む辛党でしょ?三津さんは私と同じ甘党ですよね!」
「たまに副長に内緒で一緒に呑むぞ。なぁ?」
「ねっ!」
三津はみんなには言わないでねと口の前で人差し指を立てた。
「でもっ!斎藤さん無口でしょ?三津さんは一緒に楽しくお喋り出来る人の方がいいですよね!?」
「あら,黙って女の話を聞いて相槌打ってくれる男の方が私は好きよ?」
男のお喋りは煩いだけ。たえはピシャリと言い切った。
でそういっておいた。
まぁ、本人が機嫌よくしているんだ。さきほど伝えた句が百パーセント土方歳三のものかどうかはわからない、っていうことはだまっておこう。
「よし。船室に戻って傷の手当てをするぞ」
「おぶって」
副長が宣言をすると、俊春が甘えた声でねだってきた。
「にゃんこはやってくれたよ。主計、きみもやってくれるよね」
俊春はかっこかわいいをして、子どもみたいに駄々をこねくりまくってくる。
まぁたしかに、https://www.easycorp.com.hk/zh/offshore かれのいまのコンディションでは一歩たりともあるけるわけはないよな。
「わかった。わかったよ、ぽち。ほら」
しゃがんだままかれに背を向けると、俊春は副長に手伝ってもらいながらやっとのことでおれにおぶさってきた。
やはり、動くこともままならない状態だったんだ。
そうかんがえると、胸が張り裂けそうになる。
「ハローハロー!イッツ・ナイス・ウエザー・イズント・イット」
俊春をおぶって立ち上がったとき、眼前にみんなが立っていることに気がついた。
副長に存在を消された男野村が、呑気にいいつつ青空を見上げてくるくる回っている。
おいおい、ミュージカルかよ。
ツッコまずにはいられない。
「なんだあ?おまえら、寝ていたのではないのか?」
「土方さんがをせぬよう、見張りにきた」
「そうですよ、歳さん。あなたは、ほかの罪のない傷病人たちにをとりかねませんからね。すぐに弱い者虐めをするんですから」
「なんだと、勘吾、八郎っ!」
「と、主計が申しておる」
「って、主計が申しています」
「主計っ、この野郎っ!」
「ええええっ!なにもいってませんってば」
容赦なさすぎだろう?
沢と久吉が大爆笑しはじめた。
もちろん、ソッコーで伝染する。
「うわー、ぽち先生、いいなあ」
「わたしもおんぶしてもらいたい」
市村と田村まで子どもっぽいことをいいだした。
「であれば鉄、銀。副長にやってもらえよ」
「わーい!」
「副長っ!」
「利三郎っ、なにをいっていやがる」
副長よりも背丈の伸びた市村と田村が、同時に副長の背に飛びついた。
「ヒイ・トールド・ミイ」
野村がそういっておれを指さした。
「主計っ!海にポイしてやるっ!」
副長は野村のいった英文の意味がわかっていないくせに、またしてもおれに理不尽なことをいってきた。
沢と久吉は、腹を抱えて笑っている。
おれも笑うしかない。
おれの背で、俊春もちいさく笑っている。
「ぽち、その調子だ。笑おうぜ。俊冬や近藤局長や井上先生にきこえるほど、めっちゃ笑おう」
青い空を見上げると、あの世で三人も笑っているような気がする。「ぼくらの笑い声、ミスター・ソウマにもきこえるかな?」
俊春が背中でささやいた。
「ああ。もちろん、親父にもきこえているさ。親父はきっと、大剣豪の息子とお笑い芸人の息子の大活躍を愉しみにしてくれているにきまっている」
「うん。異色コンビ、ううん。兼定兄さんがリーダーでトリオだね」
「ああ。トリオだ。なっ、相棒?」
相棒に問うと、は狼面ににんまりと笑みを浮かべた。
「なぁ、ぽち。たまの魅力にはほんのちょっと足りないかもしれないが、おれだってマジになれば雄になれるし、フェロモンだってだしまくれるはずだ。だから、遠慮なく愛してくれていいぞ」
背に負う俊春は、軽すぎる。
俊春はが生活を送る上での一般的な行動、つまり食べたり飲んだり眠ったり、なんてことはほとんどしないであろう。かれは、つねに仙人やブッダ以上にストイックなが生活を送る上での一般的な行動、つまり食べたり飲んだり眠ったり、なんてことはほとんどしないであろう。かれは、つねに仙人やブッダ以上にストイックならしい生活を送ることから心がけさせるべきだろう。
「ごめん」
背中の俊春が、謝ってきた。
「きみは、ぼくの守備範囲じゃないんだ」
「なんだって?どういう意味だよ」
「つまり、ぼくの恋愛の対象じゃないということだよ。それに。きみはガチで受けだし」
「ちょっ……。まだおれのことを受けっていうのか?だから、ちがうていっているだろう。それに、恋愛の対象じゃないって……。そりゃあ、おれはたまほどカッコよくも強くもないけど、やさしさなら負けないぞ。それに、お笑いのセンスだって負けやしない。リアルにをはったかれには驚いたけど、それ以外ならおまえを笑い死にさせることだってできる。おれといたら、一生お笑いに不自由はさせない。約束するよ」
自分でいっておきながら、だんだん情けなくなってきた。ってか、これはいったい何の告白なんだ?
「主計っ!鉄と銀をどうにかしやがれ。大事な腰がつかえなくなったら、「関の孫六」で斬り刻んでやる」
「土方さんが強いのって、腰だけだからな」
「ちがいますよ、勘吾さん。正確には、ナニのときだけ強いのです。それ以外では、たとえば漬物石を持ち上げるとか、襲ってきた相手を背負い投げするとか、そういう使い方をすればすぐに腰を痛めるはずです」
「なんだと、勘吾、八郎っ!」
「って、主計が申しておる」
「って、主計が申しています」
「主計―っ!」
「うわっ!副長、ご乱心を」
なんと、火事場の馬鹿力である。
副長が背にしがみついている市村と田村を引きずり、こちらに向かってくる。
「ほら