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《 某も武士の身にございますれば、務めの上で馬は必要不可欠。いくら信長様の仰せでも、我が愛馬をそう易々とお譲りする訳には参りませぬ 》
「…と、生意気にも儂の所望を断わりおってのう」
「──」
「五郎右衛門を説得し、あの駿馬を儂に差し出すのであれば、詫び入れの件、考えてやっても良いぞ」
「さ、されどあの馬は、倅がそれこそ宝のように大切にしております故、手離すかどうかは……」
「必ず儂に差し出すのじゃ。良いな」https://www.easycorp.com.hk/zh/offshore
信長は言い銜(くぐ)めるように告げると、パンッと膝を叩いて立ち上がり、上段横の戸襖からそそくさと出ていった。
一人残された政秀は、四半刻前の濃姫と同じような心持ちで、目の前の冷たい床板を茫然と眺めているのだった。
その夜──。
織田彦五郎信友のおわす清洲城の一室には、じりじりと緊迫した空気がみなぎっていた。
上座の檀にふてぶてしい程の威厳を放ちながら端座する信友の前に、林秀貞・通具の兄弟他、
柴田権六ら信勝を支持する家臣たちが密かに集まり、何やら穏やかならざる雰囲気を醸し出していた。
そんな彼らを、家老の坂井大膳(だいぜん)、河尻与一、織田三位(さんみ)ら信友の重臣たちが、一歩引いた所から淡々とした表情で眺めている。
「ほぉ…、では美濃の姫御前をこちら側へ引き入れる策は失敗に終わったのじゃな?」
「まことに面目次第もございませぬ」
「報春院様がご説得に当たられたのですが、お方様は殿への忠節の念を示され、断固としてお聞き入れになられなかったのです」
秀貞と通具が無念そうに告げると、信友は皮肉がかった冷笑を漏らした。
「あの姫御前を通して美濃の蝮の威勢を借りる算段であったが、まさかあの不作法者の肩を持つとはのう。
うつけの嫁はやはりうつけ。己が何をするべきか何も分かっていないと見える」
「いえ──。大方これも美濃側の策略なのでしょう」
「どういう意味じゃ?大膳」
「ようお考え下さいませ。尋常なおなごが、何の企みもなくあの信長殿の肩を持つ訳がございませぬ」
「如何にも」
間髪を容れぬ信友の同調に、重臣たちの間から小さな笑いが起こった。
「同盟を結んだとはいえ、美濃は油断ならざる忌敵。隙あらば尾張を掌中に収めんと虎視眈々と狙うているのです。
それ故、英邁な信勝様が家督を継がれたのでは、尾張一円を奪うのも困難になると危惧なされたのでしょう」
「確かに、うつけの信長が家督を継いだ方が、尾張攻略を目論む美濃にとっては何かと都合が良かろうのう」
「織田家の嫁になったと言うても、所詮は蝮殿が寄越した美濃の諜者にございます。
信長殿に跡目を継がせた後、隙を見て美濃の軍勢を尾張へ攻め込ませる算段なのでしょう」
「なるほど。それ故に信勝殿ではなく、あえてうつけの信長に肩入れを……。さすがは蝮の娘、強かなおなごじゃ」
「信勝様擁立の策を事なく進める為には、姫君がこちら側に付かなかった事は、寧ろ好都合だったやもしれませぬ」
大膳の言葉を聞き、一同は最もだと言わんばかりに頷いた。
「して、今後は如何する? このまま信長が弾正忠家の当主の座におさまるのを黙って見ているつもりか?」