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統一によって、ようやくその願いが叶うのだと 』
しかし信長は言った。
《 儂が目指す天下は広大じゃ。朝鮮や明、海の彼方にある “ 世界 ” をべることこそ、儂が求めるまことの天下統一じゃ 》
と。
希望を打ち砕かれた思いだった。
これ以上 戦を続けることに何の意味があるのか?
信長の私欲の為に、我々が粉骨砕身し続けねばならないのか?
信長も今や五十を間近にし、自らへ出て、太刀を振るうことも少なくなってきている。
彼の実力は確かだが、世界へ出て苦労を強いられるのは、臣下たちであることは目に見えていた。
『 戦が続けば、それも異国が相手となれば、戦勝を掴むまでに途方もない時を要する事になるであろう。
それもあの上様のこと、一国が手に入れば、また別の一国を求められよう。…切りがない、切りが… 』
だが光秀の最大の懸念は、戦が続くことで、自身の親族や、広く言えば日の本の民たちに火の粉が及ぶことだった。
武者修行に出ていた若い頃から、戦によって家族を亡くし、家を焼かれ、路頭に迷う民たちを大勢見てきた。
この哀れな人たちを救う為にはどうしたら良いのか…?
当代一の武将に仕え、一日も早くこの戦乱の世を終わらせる以外にないではないか。
そういう意味では、光秀にとって織田信長は最高の主君であった。で破天荒、短気で気難しい、実に厄介な人物であったが、
信長には己が目標に定めたことを、必ず実現させる神憑り的な力があった。
事実、信長が目指す日本平定はもう間近である。
それさえ叶えば戦乱の世は終わる。
そう、信じて疑わなかったというのに…。
『 終わらない。あのお方が考えを改めて……いや、生きておられる限り、戦の世は続く… 』
『 駄目だ、それでは! 何としても上様をおめせねば。我が家族の為、民たちの為、
何より上様ご自身の為に。あのお方を正しい道へ引き戻して差し上げねばなるまいッ 』
「これは謀反にあらず。の愚行をお止めせんが為の忠義……命懸けの忠義なのじゃ」
心の声はいつしか言葉となって、広い室内に重々しく響いていた。
これは裏切りではなく、忠心から来る正義の所業──。
光秀は何度も何度もそう自分に言い聞かせていた。
そうでないと、根の優しさが、いとも簡単に決意をひっくり返してしまいそうだった。
無論、“ める ” にしても選択肢は色々とあった。
信長と話し合い、日本国の平定だけに留まってくれるよう願することも考えた。
織田家重臣としての立場を捨て、信長の元を去ることも思案した。
信長を追いつめ、命を取らぬ代わりに、異国との戦を思いまるよう取引きすることも…。
だが、あの信長が自分の懇願を聞き入れてくれるとは到底思えない。
かと言って、ここで織田家を去っては、自分に仕える家臣やその家族のことを考えると、とても踏み切れなかった。
信長を追いつめる案にしても、結局は主君を攻めた謀反人として捕らえられ、極刑に処されるのは必定である。
『 今はまだ死ぬ訳にはいかない。せめて、乱戦の世が終わるのを見届けるまでは 』
ならば、残された選択肢は一つしかない。
───主君・織田信長を、京にてち取る
それが、最終的に下した光秀の決断であった。